事例の解説
「環境変化を考えるシート」の活用事例です。今回の事例は、「人生後半戦のライフ・キャリアシート」を活用した事例の継続面談での使用例です。相談者はお勤め先の薬局がM&Aによって経営方針が変わる転機にあり、今後の働き方をあらためて考えています。前回、「人生後半戦のライフ・キャリアシート」を活用することで、ご自身の強みや価値観を明確にすることができました。その上で今回は相談者が置かれている環境とその変化について整理するためにツールを活用しています、
転機は変化のときです。環境の変化に伴い、相談者自身も内面的な変化に直面しています。「変わっていかなければいけない」そう思いはするものの、「今のままがいい」と思う気持ちが強く、葛藤しています。今のままがいいと思う気持ちは現状維持バイアスとも捉えられます。意思決定においては認知バイアスにも注目する必要があります。
現状維持バイアスとは、変化を避けて現状維持を望む心理傾向であり、認知バイアスのひとつです。選択肢にメリットとデメリットが同時に存在する際に、リスクや失敗を恐れて非合理的な選択をしてしまうことを指します。今回の相談者のように挑戦よりも安定を求める傾向にある方は、現状維持バイアスが強く働いていることが想像されます。
今回の相談者にとっては現状維持が安心につながっていると考えられます。相談者の「安心したい気持ち」にしっかりと寄り添いながら、シートを活用することで事実関係としての環境の変化をとらえていくことが大切です。相談者を取り巻く変化についてまとめてみましょう。
・M&Aによる親会社の変化
・薬局の運営方針の変化
・業界全体で競合他社との競争激化
・お薬の提供サービスの変化
・店長の考え方の変化
以上のように相談者を取り巻くものが大きく変化のときにあります。今は変化の途上にありますが、その先に考えられる状況についても考えていく必要があります。「環境変化を考えるシート」を活用することで、現在起きている変化と今後予想される変化をそれぞれ書き出しながら整理することができます。
・M&Aによる親会社の変化→経営方針の変化、DX推進や在宅医療への参入
・薬局の運営方針の変化→売上・利益の追求、目標・KPIの導入
・業界全体で競合他社との競争激化→差別化を図るための新規サービスの提供
・お薬の提供サービスの変化→物流のスピード化・高齢化への対応
・店長の考え方の変化→薬局運営の効率化(自動化)・品質改善の取り組み
現在起きている変化だけではなく、今後予想される変化を考えることで未来の環境とそれに対する働き方の変化を見通すことができます。相談者にとってデメリットに働くことだけではなく、メリットとして捉えることができる要素もあるかと思います。例えば、薬局運営の効率化について考えてみましょう。現在は品出しとレジを両立しながら働いている相談者ですが、忙しくなることでひとつの作業に集中できなくなることがストレスに感じています。
しかし、薬局運営を効率化するために無人レジを導入したり、ネット販売に特化することでレジや品出しの仕事そのものがなくなる可能性もあります。そのときに、相談者はどのように自分の強みを生かし、薬局での仕事に向き合っていくでしょうか。きっと新たな発見があるかと思います。
「環境変化を考えるシート」を通じて未来を見通すことで、あらためて自分に求められる新しい知識・スキルを確認することができます。これからは薬局業務でも高度なPCスキルが求められるかもしれません。有人から無人に切り替わっていくことで、人の指示で働くのではなく、自動化された仕組みを管理する能力が重要になるかもしれません。未来を見通すことで相談者が前向きにスキルアップを図り、キャリア形成に取り組んでいくことが大切です。
さらに、今回のツールについてはキャリアコンサルタントは相談者の思いに共感することに加えて、業界や会社の変化について相談者から教えていただく姿勢や、自分自身でも相談者と協力して調べる場合があります。あくまで相談者が主体となって取り組むワークですが、キャリアコンサルタントにも相談者を取り巻く環境とその変化を具体的に把握し、かかわっていくことが求められるでしょう。
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