事例の解説
「自己理解~行動・特徴把握シート」を活用した事例です。相談者は役職定年を控え、嘱託社員として再雇用を希望すべきか、それとも退職を決断すべきかで悩んでいます。キャリアコンサルタントは相談者が抱える不安な気持ちを受け止め、傾聴に努めている様子がうかがえます。
相談の要点をまとめます。
・役職定年に当たり再雇用か退職化で迷っている。
・再雇用の場合は嘱託社員となり役職がなくなる。
・自分が居れば下がやりにくいのではないかと思う。
・邪魔者扱いされるのではないかと不安に思っている。
・部下の指示に素直に従えるか、こわいと感じる。
・どう振舞ったらいいのかわからない。
これまでワンマンで部長職を務めてきたことで、部下との関係構築や指導の仕方、それを逆の立場でとらえたときのイメージが湧かないことが相談者の問題として考えられます。具体的なイメージが湧かないが、想像をすると漠然としたこわさやストレスを感じる。嘱託社員として再雇用されている方々を見て、おそろしさを感じるほどのものです。
20年以上という長いキャリアです。逆の立場に立つことが想像できないというのは当然のことと言えばそのとおりかもしれません。しっかりと不安なお気持ちを受け止めて、相談者自身が自己理解を深めていく過程を大切にしてかかわっていきます。
さて、今回のツール「自己理解~行動・特徴把握シート」では、職場にいてほしいと思われる中高年、職場にいてほしくないと思われる中高年とは、どのような人材なのか整理し、自分には何が足りていて何が足りていないかを明確にするワークを行います。相談者を尊重して、むやみにプライドを傷つけることがないように活用していく必要があります。
例えば、相談者自身は職場に馴染んでいて、部下に好かれていると自己認知をしているとしましょう。しかし、キャリアコンサルタントの見立てでは周囲への思いやりに欠けており、独断で仕事を進めてしまうことで孤立してしまっていることが問題としてあげられるとします。このようなケースで「職場に居てほしくない中高年」像を書き出してみましょう、という提案はあまりに直接的すぎるのではないでしょうか。
キャリアコンサルタントとの対話の中で、自分のことを振り返り、相談者が自分自身でその傾向や特徴に気づきを得ていくその過程の中で、「自己理解~行動・特徴把握シート」を活用して理解を促進していくことが適切です。大事なことは相談者自身が自分に向き合う準備ができていることです。
今回の事例では相談者から「私が変わらないといけないのだと思います。」と語られる場面があり、その後にキャリアコンサルタントからツールを活用した自己理解の促進を提案しています。キャリアコンサルタントは相談者が自らの内面に向き合っていることを確認したうえでツールの提案をしていることがわかります。
内面と向き合うのは大変な勇気のいることです。転機のときには環境の変化だけではなく、内面を大きく変化させていくときでもあります。「変わらないといけない」という思いや、「変えられない」自分にも向き合っていきます。キャリアコンサルタントに求められるのは相談者に変化をうながすのではなく、環境や内面の変化に向き合うための勇気を与える役割に近いのではないでしょうか。
中高年層は特にこれまで積み上げてきたキャリアの意味が大きいものです。考え方や価値観がしっかりとその人生に根付いています。尊敬と敬意をもって、相談者の変化のときに寄り添うことを大切にかかわっていくことを心がけましょう。
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