問題把握には5不足+1で仮説を立てる方法があります。必ずしもこれに当てはめることはなく、ケースを通じて「敏感に感じたこと」「洞察を得たこと」を真の問題として捉える力こそ、本来のキャリアコンサルタントに求められると思っています。
しかしながら、これができるようになるには多くのケースを経験する必要がありますので、まずは次の5不足+1で問題を捉える練習をしてみましょう。
問題把握の代表的なテーマが次の5つです。
①自己理解
②仕事理解
③コミュニケーション
④情報
⑤将来ビジョン
+思い込み
自己理解不足
自己理解とは、自分にとって望ましい職業選択、人生設計(キャリア・デザイン)のためにありのままの自分を知ること、その程度を意味しています。
適職が見いだせないクライエントや、自分の強みや弱みに対する理解が浅いことで問題が生じている場合に見立てるのが、自己理解の不足です。自己理解を促進するかかわりや、ツールを活用して働きかけを行います。
<主な自己理解のテーマ>
- 能力・スキル・・・自分が考える能力と第三者から見たときの能力
- マッチング・・・自分が求めるものと第三者に求められるもの
- 強み、弱み・・・自分の強み、弱みについて客観的に語れる力
- 価値観、信念、興味・・・何に重きを置いているのか、譲れるもの・譲れないもの
仕事理解不足
役職・役割に対して周囲から求められている働き方、企業・経営の組織的な立場からの理解が不十分なケースでは仕事(組織・役割)理解の不足が問題として捉えられます。上司からの期待、企業人としての考え方などを深めていく必要があります。
<主な仕事理解のテーマ>
- 企業、経営・・・社会全体における企業の役割、経営目線に立った仕事の意味
- 職業、役割・・・仕事の責任、求められる働き方、成果、能力、コンピテンシー
- 業界、市場・・・業界の特徴や市場規模、労働状況の傾向など広義の意味での仕事
仕事理解が不足しますと、例えば昇進・昇格に際するキャリアアップの悩みや、入社後のリアリティショック等の問題が生じるケースがあります。
クライエントが上司の目線に立って考えたり、時間軸を変えて捉えなおす働きかけによって、直面していることの意味合いや考え方が深めるのがキャリアコンサルタントの仕事です。時間軸×他人軸のマッピングに沿って整理をすると、クライエントに不足している理解はなにかを解き明かすことができます。
自己理解・仕事理解を促進することを目的としてアセスメント・ツールが活用される場合もあります。養成講座に通学の方は、講座内でも実際に体験する機会があるかもしれません。各種のアセスメント・ツールには対象年齢や形式、その目的があり、学科試験でも出題されることがあります。
但し、論述試験では記述できる文字数にも限りがありますし、出題される部分的な事例記録のみで具体的なアセスメント・ツールの提案はやや踏み込み過ぎているかもしれません。
論述試験で言及するかは別として、ここでは学科試験対策としても抑えておきたい代表的な仕事理解のツールをご紹介します。
<代表的なツール>
- VPI職業興味検査
- GATB厚生労働省編一般職業適性検査
- キャリアインサイト統合版
コミュニケーション不足
家族との相談、同僚や上司とのコミュニケーションが不足している状態です。クライエントが心理的に孤立していたり、組織集団の関係性に何らかの問題が生じているケースで、クライエントのコミュニケーション不足が指摘されます。
実技ロープレや実際の面談場面において、コミュニケーション不足を検出するときには他人軸でスクリーニングをしていく方法があります。
一方、論述問題では、関係者についてはクライエント本人から語られる内容がすべての情報になります。登場しない人物とのコミュニケーション不足を指摘することはありませんので、事例記録にある登場人物との心理的な距離を示す手掛かりを参照しましょう。
情報・情報収集不足
例えば、「転職をしたい」「早期退職をしたい」というご相談事例で、転職先の企業情報や業界動向、自社の退職金など社内的な制度について情報が少ないため、意思決定が難しいクライエントの問題として取り上げられます。
情報(収集)不足に対するアプローチでポイントとしておきたいのは、クライエントは混乱の中にあって、情報が収集できていない(情報収集に対する主体性が低下している)状態にあることです。キャリアコンサルタントに求められるのは、情報を収集して、意思決定を図るためのリソースとして活用できるように共に伴走する姿勢でかかわることです。
情報不足によって意思決定ができない場面では、次回面談までに調べてくること、整理してくることがたくさんあるかと思います。クライエント任せにしすぎずに、手分けをして情報収集をしましょうと働きかけることで自己肯定感が低下しているクライエントに対しても勇気づけを与える効果があります。そして、クライエントが主体性を持って調べてきたことがあればしっかりとコンプリメントを伝え、行動強化を促しましょう。
<主な情報(収集)のテーマ>
- 企業・制度・・・国・都道府県で使える制度、会社の福利厚生、求人情報
- ファイナンス(コスト)・・・選択肢に対してファイナンス面のベネフィットの整理
- メリット/デメリット・・・選択肢に対してメリット/デメリットの整理
Point!
✓ キャリアコンサルタントは提案できる制度については知っておく
✓ 提案+伴走型でクライエントの主体性を尊重してかかわっていく
将来ビジョンの不足
セカンドキャリア、育児・介護、転職、ファイナンスなど多岐に渡る相談で、将来ビジョンが不明確なために意思決定ができない問題が見立てられます。クライエントと共に問題を整理していくことによって将来に向けたプランニングができるようになります。
論述でも面接試験でも、将来ビジョンが十分に明確なクライエント像はまず登場しないかと思います。将来ビジョンが不明確であるがために、現在の意思決定が難しく、これがために迷いが生じているわけです。
問題を抱えている「今」の状況や気持ちをしっかりとお話いただき、その問題の糸がこんがらがってしまったかもしれない「過去」について確認をする。そして、最終的に解決しないといけない問題は「未来」に対するものです。より良い明日を見出すためのキャリアコンサルティングです。
将来ビジョンの不足は、現在のクライエントの問題全体に大きくまたがっているものとして、包括的に捉えられるとよいかと思います。
思い込み
どのテーマにも共通することが思い込みによる問題です。自己理解/仕事理解が不足しているから、「こうしなければならない」と思い込んでいたり、コミュニケーションが少ないために「相手はきっとこう考えている」と思い込んでしまい、クライエントが問題を抱えて込んでしまっている状態です。
これはすべての問題把握において共通することですが、クライエントの問題はクライエント自身には見えていないか、もしくは無意識に抑圧している開かれたくない場所であることもあります。ですから、問題との向き合い方、取り扱いにくれぐれも注意が必要です。
自己理解が乏しく、高望みな転職を繰り返しているクライエントがいたとします。しかし、「あなたは自己理解が足りないのでもっと自分のことを知ることでアンマッチを解消できるかもしれませんよ」と、こう受け取られてしまうようなメッセージ、表現、態度は決して望ましくありません。
問題はキャリアコンサルタント側が面談を進めていく上でのひとつの目安です。ただ、キャリアコンサルタントが切り出した問題と実際にクライエントの内面で起こっている問題とは必ずしも相関するとは限りません。経験とキャリアを積んだキャリアコンサルタントであっても、初期に見立てた問題とは別の糸口で解決に向かっていくことは非常によくあることです。
クライエントを誘導するのではなく、クライエントの歩幅と進みたい道に寄り添っていくのが私たちキャリアコンサルタントのあるべき姿ではないかと思います。






